同時発音数は多い方がいい? - 電子ピアノの上手な選び方

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同時発音数は多い方がいい?

電子ピアノのカタログを見ていると、仕様として「最大同時発音数」という項目の記載があることに気がつきませんか?

最大同時発音数とは、同時に出せる音の最大数のことです。

複数の鍵盤が押されたとき、電子ピアノはその分の音を再生する必要がありますが、同時に音を処理する機能には限界があり、モデルによってその数の上限が決められています。

初期の電子ピアノは16音が最大でしたが、現在のモデルには少なくとも64音が確保されています。その数は価格が高くなるほど増えるので、最上位モデルになると256音にもなります。さらに、最大同時発音数が「無制限」というものまで登場しました。

同時発音数が、単に「鍵盤を弾いた時に同時に出せる音の数」なのであれば、電子ピアノの鍵盤数は最大で88鍵なんだから、同時発音数だって88が最大になるんじゃないの?って疑問に思う人もいるのではないでしょうか。(そもそも一度に88鍵すべてを弾くようなことがあるのかと言ったら、とても考えにくい状況ではありますが)

実は同時発音数は、同時にいくつの鍵盤を押したという数のことではないんです。

電子ピアノは左右のスピーカーから音が出るステレオ再生なので、たった1つの鍵盤を打鍵しても2音は発していることになります。つまり、少なくとも弾いた鍵盤の2倍の数が発音数にカウントされるということです。

たとえば10本の指で同時に弾いたら発音数は20になるので、それだけで初期モデルの16音は超えてしまいますね。

おまけに、ダンパーペダルを使うと鍵盤から指を離しても音が伸ばせて、いくつもの音を重ねることができますが、その余韻の音も発音数として加算されるんです。

また、2人で弾く連弾を行う場合には、単純に考えて2人分の同時発音数が必要になってくるでしょう。

では、同時発音数が少なかった場合、弾いていてどうなるのでしょうか?

最大数を超えた瞬間、それまでダンパーペダルによって伸びていた最初に弾いた1音めがふっと消えます。2音め、3音目と弾いた順に音が消えていきますので、場合によっては音が不自然に切れてしまい、演奏がなめらかに聴こえないということも。(消え方については各メーカーが工夫を凝らしているので、音が消える違和感に気づく耳のよい人もいれば気がつかない人もいます)

この音が消えていく現象は「音切れする」というふうにも呼ばれています。

難易度の低い曲であれば、それほどたくさんの音を同時に弾くようなことはないので問題ありませんが、難しい曲になれば鳴らす音の数は確実に増えますし、ダンパーペダルも頻繁に使うことになるでしょう。

たとえば最大同時発音数が128音の電子ピアノで、ショパンの幻想即興曲やテンポの速いエチュードを弾くと、音が足りなくなるようです。音切れの問題は、ダンパーペダルを頻繁に使用するテンポの速い楽曲で顕著に表れます。

同時発音数が多く必要なのは、そういった理由からなんです。

もちろん同時発音数は多いにこしたことはありませんが、初心者から中級者までなら64~128音ほどあれば、それほど心配しなくても大丈夫でしょう。基本的なピアノの演奏において音切れしない充分な数値ですので、弾いていて違和感を感じるようなことはあまりないと思います。

ただ、ピアノを練習中の人ほど、できれば同時発音数が多めの機種を使った方が良いのかもしれません。

それはなぜかというと、当然のことながら間違えたり外して弾いてしまった音も同時発音数として数えられ、外した分だけ音は濁っていきますが、同時発音数が少ない電子ピアノだとミスタッチをしても音の濁りが早い段階で自動的に消えていってしまうからです。

普通、ミスタッチが多いと聴くに耐えない響きになってしまうものですが、音切れによりあまり気にせずにペダルを踏み続けることができてしまうため、そういう意味では練習には少し不向きともいえるのです。